『最後に鴉がやってくる』イタロ・カルヴィーノ

最後に鴉がやってくる (短篇小説の快楽)

Ultimo viene il corvo
Italo Calvino 1949

カルヴィーノの初期短編集『最後に鴉がやってくる』を読む。いわゆるネオレアリズモ的主題を取り扱った作品群で、技巧的には後期作品に及ばず、カルヴィーノを市場においてキャッチーにしている奇想も控え目だが、その分、この作家の本質だと感じる、貧困や暴力、相互理解不可能性、人間性の溶解(しばしばモノのモチーフによって表現される)、既に取り返しのつかないほど壊れてしまっている世界……といったものへの冷え冷えとした認識と、それを小説の「軽さ」の中に捉えなおそうという後期作品まで一貫して続いていく倫理とが、瑞々しく剥き出しになっており、むしろ好みでいえば一番かもしれない。この短編小説群は、「喜劇的」「軽妙な語り口」などと評されながら、実はさっぱり笑えないものを語っている。喜劇にでもするしかない深淵、というやつ。パルチザン青年であった著者が(であるからこそ?)全く幻想から距離を取った目で、これらの作品を書いているのだと思うと、そのお見事さに立ち竦む。